大判例

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東京高等裁判所 昭和48年(ネ)921号 判決

控訴人

テイレム・インターナシヨナル、カンパニー・インク

日本における代表者

上間秀達

右訴訟代理人

磯村義利

外二名

被控訴人

株式会社マツダオート南東京

右代表者

北島秀夫

被控訴人

佐藤広

被控訴人

伊東道行

右三名訴訟代理人

久保田貞次

被控訴人

志村晃嗣

主文

原判決を取り消す。

被控訴人志村および同伊東は各自控訴人に対し金二、八二〇万円、被控訴人佐藤および被控訴会社は各自控訴人に対し金一、〇〇八万円およびこれに対する昭和四五年一一月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

控訴人その余の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審ともこれを三分し、その二を控訴人、その余を被控訴人らの負担とする。

事実《省略》

理由

一被控訴会社に対する売買代金の請求について

(一)  本件取引の経緯は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決の説示のとおりであるので、その記載を引用する。

1  訂正〈省略〉

2  原判決一四丁表三行目「市場性もなかつた」を「市場にメーカー名、ブランドがあまり知られていなかつた」と訂正し、同一五丁裏六行目「被告佐藤は」から同七行目「また」までを削除し、同一七丁表一一行目「発行しなかつたので、」以下を次のように改める。

「同年一一月中旬頃、被告佐藤は、被告伊東に対し原告会社のカーステレオを購入する商談は取りやめる旨口頭で通告したこと、被告伊東、同志村は、本件カーステレオを被告マツダに売込むということで原告会社から出荷を受けていたのに、被告マツダとの取引が破談になると早々に原告会社に無断で右カーステレオを取引の実績もないイサベ産業株式会社、長谷川某等に売捌いてしまい(いずれも代金の回収はできていない。)、その内の数十台が秋葉原の電気商の店頭に流れたこと、また、被告伊東は上間とカーステレオの代金支払について話合つた結果、国際企画は右カーステレオの代金の支払いとして同年一一月一七日および同月二八日の二回にわたり一〇〇万円ずつ合計二〇〇万円を原告会社に支払つたこと、また、国際企画は、同年一二月頃上間の要求により総額約一、五〇〇万円の小切手、約束手形を振出し原告会社に交付したが、右小切手、約束手形はいずれも不渡となつたこと、国際企画は昭和四六年一月二五日原告会社に対し右カーステレオの代金債務三、〇二〇万円の弁済について支払方法の緩和を求める調停を申立てていること、以上の事実が認められる。〈証拠〉中右認定に反する部分は前記証拠と対比して採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。」。

(二)  右認定した事実によると、本件カーステレオの取引は国際企画が控訴会社と被控訴会社との間を取次ぎ、控訴会社から買入れて被控訴会社に売込もうとしたものであり、控訴会社と国際企画との間では右売買契約(代金額三、〇二〇万円。ただし、数量三、二〇〇台、単価九、五〇〇円であるので計算上は合計三、〇四〇万円となるが、控訴会社の請求金額は三、〇二〇万円。)の成立を認めることができるが、控訴会社の主張するような控訴会社と被控訴会社との間の売買契約の成立あるいは右代金を被控訴会社から控訴会社へ直接支払う旨の代金支払契約の成立は認められず、また、被控訴人佐藤は本件カーステレオを単価七、〇〇〇円以上では買入れることができないとして商品の受領を拒絶しているので、被控訴会社に対し表見代理に基づく契約責任を認めることもできない。

そうすると、控訴会社の被控訴会社に対する売買代金の請求は、いずれも理由がない。

二被控訴人らに対する損害賠償請求について

(一)  被控訴人伊東、同志村の賠償責任の有無

前記認定した事実によれば、被控訴人伊東、同志村は、(イ)本件カーステレオの取引価格が控訴会社の上間と被控訴会社佐藤との間で未だに折合いがついていなかつたのに、上間に、被控訴会社が早急に入手したがつていると虚偽の電話をして、本件カーステレオを出荷させ、また、(ロ)被控訴人佐藤が本件カーステレオの受領を断ると、被控訴人佐藤に、「商談をうまく進める方便として商品受領書に捺印してくれ。」と懇願し、国際企画宛の商品受領書に被控訴会社の受領印を押捺させ、右受領書を控訴会社の社員瀬口に交付して帰社させたうえ、本件カーステレオを被控訴人志村の自宅に運び込んだこと(ハ)その後、被控訴会社の右商品受領書で控訴会社を信用させることによつて、七回にわたり合計三、二〇〇台のカーステレオを控訴会社から出荷させ、その都度被控訴人佐藤から前同様に商品受領書を徴し、カーステレオは被控訴人志村の自宅に直送したこと、(ニ)被控訴人佐藤から本件カーステレオの商談を取りやめる旨の通告を受けると早々に、本件カーステレオをイサベ商会等に売り捌いてしまつていること、(ホ)控訴会社の上間秀達は前叙各事実から本件カーステレオが被控訴会社に納品され、被控訴会社から直接控訴会社に対し商品代金が支払われるものと誤信して右出荷をしたこと、以上の取引経過が明らかであり、これらの一連の経緯から考えると、被控訴人伊東および同志村は、共同して、本件カーステレオ三、二〇〇台を控訴会社から騙取したものといべく(上間が被控訴人らの希望する取引条件に応じるような口ぶりを示したので、被控訴会社に売込めると目算を立てたが、被控訴会社が控訴会社から単価七、〇〇〇円の請求書を受取るまでカーステレオの受領を断つたので、取引が破談となり、目算の狂う結果となつたことが認められるが、前述のとおり被控訴人伊東らは控訴会社からカーステレオを出荷させるについて控訴会社に虚構の事実を告げているので、商品を騙取したという非難は避けられないものであり、また、早々に右商品を他へ処分してしまつていることは右騙取の事実を裏づけているといえる。)、右両名は、騙取によつて控訴会社に与えた損害を連帯して賠償すべき責任を免れることはできない(なお、前述のとおり、本件カーステレオについて控訴会社と国際企画との間の売買契約は成立していると認められるが、このことは右両名の損害賠償責任を否定するものでなく、商品代金に相当する部分は弁済された限度でそれぞれの債務が消滅するものと考える。大判昭和三年一〇月一一日民集七巻九〇三頁参照)。

(二)  被控訴人佐藤、被控訴会社の賠償責任の有無

被控訴人佐藤は、前記認定のとおり、被控訴会社のサービス部長の職にあり、自動車の付属品、装飾品等の仕入、販売を担当していたものであり、控訴会社から本件カーステレオを買入れる商談を重ねていたが、価格の折合いがつかず商談がまだまとまつていないうちに、被控訴人伊東らが昭和四五年一〇月二一日に突然被控訴会社へ本件カーステレオ四〇〇台を運び込んできたので、一たんその受領を断つたものの、前記のとおり被控訴人伊東に懇請されるままに商品受領書(甲第二号証の一)に被控訴会社の受領印を押捺し、また、その後合計六回にわたり控訴会社から直接被控訴人志村の自宅は届けられたカーステレオについて、被控訴人伊東の指示するままに商品受領書(甲第二号証の二ないし七)に被控訴会社の受領印を押捺しているのである。

商品受領書は商品の受領を証明するものであるので、商品の買主が商品を受領していないに商品受領書に受領印を押捺して交付すれば悪用される虞れのあることは容易に予測できるところであり、ましてや売買契約の未だ成立していない過程でかような受領書を作成し売買の取次業者に交付することは危険なことである。それで、被控訴人佐藤がこのような商品受領書に受領印を押捺し交付するにあたつては、事前あるいは爾後に出荷先である控訴会社に十分連絡をとり、控訴会社に誤解を与えないように注意すべきである。被控訴人佐藤がこの注意を怠り、被控訴人伊藤に懇請されるままに軽率にも前記行為に及んでいることは、被控訴人伊東、同志村の不法行為に加功したもの(被控訴人佐藤が右注意を尽していたら、控訴会社が商品の騙取を避けることができたもの)というべきである。被控訴人佐藤が右商品受領書に押捺したのは、被控訴会社の正規の商品受領印ではなく、被控訴会社が郵便物等の受付に使用している受領印であることが認められるが、外形上右使用の用途が限定されていることは明らかでなく、また控訴会社において右使用印の用途を知つていたとは認められないので、右印影が被控訴会社の印影であることを示している以上、被控訴人佐藤が控訴会社に誤解を与えないように注意すべきであるのは同じである。

そして、前記認定のとおり、被控訴人佐藤が本件カーステレオの商談を進め、商品受領書に被控訴会社の受領印を押捺した行為は、外形上被控訴会社の事業の執行につきなされたものといえる。

そうすると、被控訴人佐藤は過失により加功した前記不法行為について損害賠償責任を免れないのであるが、被控訴会社も被控訴人佐藤の右不法行為について使用者責任を負わねばならない。

(三)  損害について

1  前記認定事実によると、控訴会社は右被控訴人らの不法行為によつて本件カーステレオ三、二〇〇台を失つたと認められ、その損害額は代金額三、〇二〇万円に相当すると認められる(控訴会社は売買代金三、〇二〇万円の損害を受けたと主張するが、代金債権の侵害を受けたものとは認められないので、右主張は失当であるが、右主張には商品の喪失による損害の主張も含まれているものと解する。)。

しかし、前記認定のとおり、控訴会社の上間は、(イ)本件取引を進めることになつた当時、新東和興産との取引に失敗し、控訴会社に約七〜八〇〇万円の赤字を生じさせていて、その穴埋をしたいと考えていたので、被控訴人伊東らから本件取引の仲介を受けて被控訴人らの取引条件に応じるような口ぶりを示していたこと、また、(ロ)被控訴人伊東らが取引価格の折合いが未だについていないのに出荷を催促したのに対し、「価格の点は自分が責任をもつて調整するが、本社への報告もあるのでとりあえず単価九、五〇〇円で出荷させて欲しい。」旨述べて出荷をしていること、(ハ)右出荷にあたり被控訴会社との間で取引価額のほか、数量、代金の支払時期、方法も未だ定まつておらず、また注文書の授受もなかつたのに商品を出荷し、その出荷にあたり直接控訴会社に連絡もせず、都合七回にわたつて合計三、二〇〇台という多量の商品を出荷してしまつていること、以上の事実が明らかであり、これらのことは、控訴会社側デも本件カーステレオの出荷にあたつて注意義務を欠いた過失があつたというべきであり、この過失は本件取引の諸般の事情を考慮すると、被控訴会社および被控訴人佐藤に対する関係では損害額の六割を過失相殺すべきであり、右被控訴人両名に対して賠償を求めうるのは金一、二〇八万円をもつて相当と認める(過失相殺は当事者の主張がなくても裁判所が職権ですることができることについて最判昭和四三年一二月二四日民集二二巻一三号三、四五四頁参照)。しかし、被控訴人志村および伊東に対しては、前記損害全額の賠償を求めうるものとするのが相当である。

2  控訴会社は、弁護士費用についても損害賠償を求めているが、本件はさきに述べたとおり控訴会社にもかなり重大な過失の認められる事案であり、被控訴人らの所為は必ずしも不当抗争であるとは認められないので、右弁護士費用は被控訴人らの行為と相当因果関係にある損害とはいえず、右弁護士費用について損害賠償を求めるのは失当である。

3  なお、さきに認定したとおり、控訴会社は、訴外国際企画株式会社から本件売買代金の支払として、昭和四五年一二月一七日、同月二八日の二回にわたり金一〇〇万円ずつ合計金二〇〇万円の弁済をうけていると認められるので、控訴会社が被控訴人らに対し賠償を求めうる損害額は、右弁済額を控除した金額である。

三そうすると、控訴会社に対し、被控訴人志村および伊藤は各自金二八二〇万円、被控訴人佐藤および被控訴会社は各自金一、〇〇八万円およびこれに対する不法行為である昭和四九年一一月九日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるので、本訴請求は右限度で理由があるからこれを認容し、その余はこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、九二条、九三条を、仮執行の宣言はこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。

(伊藤利夫 小山俊彦 山田二郎)

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